私の母は昔から宗教や新聞の勧誘が来ると、にべもなく断っていた。そんな姿を小さい頃から見てきたせいか、私自身も勧誘を断るのに抵抗がない。その方がお互いの時間の無駄を省けるし、とも思ってしまうのだ。
勧誘を断るのが苦手なママ友がいる。我が家にもよく来る宗教の勧誘の人と、小一時間くらいは話をするらしい。しかも子供の名前まで憶えられていて、帰ってとも言えずに困っているそうだ。家を訪れる見知らぬ人とまともに話をしたことがない私は心底驚いたが、先日我が家を訪れた見知らぬ人と言葉を交わす機会が訪れてしまった。
子供たちが小学校に行き、私もパートの仕事がたまたま休みだったので、珍しく家にずっといるという日があった。情報番組を見たり優雅にコーヒーを飲んだり、一人の時間を満喫していると、チャイムが鳴った。そのときはまだパジャマで着替えるのも面倒だったし、「どうせまた何かの勧誘でしょ…」と思った私は居留守を使うことにした。しばらくしてトイレに行こうと廊下に出た私は、思わず絶句してしまった。なぜならそこには作業着を着た見知らぬオジサンが立っていたからだ。私が固まっていると、そのオジサンが「あぁ、どうも…」と言ったので、私も思わず「あぁ、どうも…」と返した。しばらく何が起きたのかわからずにぽかんとしていると、そのオジサンは何食わぬ顔で玄関から出て行ったのだった。今日、何かの工事を頼んでいたっけ?とかぐるぐるいろんな思いが駆け巡り、警察に電話しなきゃという結論にたどり着いたのはオジサンと遭遇してから5分後のことだったのか30分後のことだったのかは定かでない。それから警察が来て事情を聴かれたり指紋を取られたりで、一人の優雅な時間は強制終了されてしまったのだった。
その一件以来、戸締りにはものすごく気を付けるようになった。だけどあれから私は居留守を使うことができなくなってしまったのである。