冗談じゃないってこのことだ。独り暮らしを始めて三ヶ月。ようやく銭湯に通うのも慣れてきたところだった。そこにあるコインランドリーで、私ははじめて中身が見える乾燥機というものを使った。もちろん小銭を入れて洗濯するっていうのも初めてだ。
お風呂からあがってランドリーでボーっとしていると、自分が小説の主人公になったような気がしてくる。と言ってもあまり楽しい物語の主人公ではなさそうだけど。
でも、そのコインランドリーにはいろんな人がやってくるから、観察しているのはわりと楽しい。そのうち出会いがあるじゃないかなんて期待もしていた。そんな矢先。
いつものとおり、銭湯から出てきて、自分が放り込んだ洗濯物を拾い上げ、そのまま乾燥機に入れていく。小銭を入れて、私のタオルや靴下は回り始めるのを眺めていた。もう少しで、私の洗濯物が仕上がってくる。生渇きだけれど仕方ない。あと何分か乾燥機を回せば完全に乾くのは分かっているけれど、お金がもったいないから残りは下宿に帰って干すことにしている。乾燥機を使うのは、濡れた洗濯物をそのままで持って帰るのが、あまりにも重くていやだからだ。
しかし、私はその日、乾燥機の中で回っている洗濯物にクギ付けになっていた。たぶん、いや間違いなくお気に入りにTシャツが無くなっている。出会いは出会いでも、洋服泥棒との出会いだった。あたりを見回したけど、怪しそうな人はいない。いや、むしろ怪しい人しかいないのか。コインランドリーの洗濯機にも鍵をつけるべきだ。
そのとき、無くなった私のTシャツを手に、しげしげと眺める男を見つけた。
「変態野朗!」思わず叫んでTシャツを奪い取った。
男は呆れ顔で言った「それ、ここに残ってたんだけど」
見ればそれは、私がさっきまで使っていた洗濯機。取り忘れたのか。
平謝りの私に男が一言「まあ、いいよ可愛いから許す」だって!
トキメキかけた私に追いうちの一言
「そのTシャツがね」